るいものお気に入り

 るいもは生まれて1年余りになる.貰い先でるいもをカゴに入れて車で帰る途中に寄った店では,舞い上がっていてフードや,トイレ,砂等の必需品を買うので精一杯.オモチャの事など全く眼中に無かった.いや,これはこれで正解だったのかもしれない.何しろ帰ってからは何時間もカゴの中から出てこない.ようやく出てきても,あちこちのにおいを嗅いで回ることに忙しい.それでも一日経てばさすがに緊張もほぐれ,ではこちらも遊んでやろうかということになる.とはいっても会社から帰ってくる時分にはペットショップもしまっているので,最初のオモチャは手作り.毛糸を丸めたものをロッドアンテナ(トランシーバーなんかについている,伸び縮みするアンテナ)の先につけて振り回せば,それはもう大喜び.これを15分も続ければ疲れ果ててコロンと寝てしまう.


 るいもを抱いて部屋の中を歩いていると,急に緊迫する.その視線の先には蛍光燈のスイッチ.この後,人様の肩の上で大暴れすることになる.るいもは小さい頃,この紐が大好きで,うっかり気を抜いて蛍光燈の側を通り過ぎようとすると,待ち伏せしていた獣は爪を剥き出しにして,あっという間に肩の上まで這い上がり,スイッチにじゃれつくのである.特に風呂上がり等,軽装の時にこれをやられるとたまらない.肩に無残な爪痕を残されることになる.そのうちスイッチの下で上を見上げて遊ばせろと催促すれば,抱きかかえてくれるということに気づいたようだが,顔の横で爪をあらわにした手を思いっきり振りまわすので,とばっちりで何発かの猫パンチを顔面にあびせられることになる.人様の方はたまったものではないが,いたいけな小猫の視線には到底勝てるものではない.ボコボコにされたスイッチを見れば,人間様側の被害の大きさを予想するのは難しくない.最近はこの遊びにもすっかり飽きたようで,抱きかかえてやってもお付き合い程度に手を出すだけになってしまった.無論これはこれで喜ばしいことのはずなのだが,また少々寂しい気もする.


 最初に手に入れた市販のオモチャが蛍光色のネコジャラシだったと思う.これはいたくお気に入りの様子で,床の上で振り,いすの上で振り,出窓のところで振りと,さながらネコ版踏み台昇降運動を飽きること無く続けた.夏場など3分も経たずして口から舌を出して犬のようにゼーゼーと息をしながらバタン.ここまで夢中になってくれると人間様も遊ばせ甲斐があろうというもの.ネコジャラシでくるくると円を描き,目が回って腰が砕けるまで猫を回すのも楽しい.ネコジャラシの動かし方にはこつのようなものがある.猫というのは,小刻みに動くもの,突然姿を消すもの,見えないところでかすかに音のするものに心を奪われるものらしい.猫じゃらしもただ振るのでなく,小刻みに動かしたり止めたりした方が喜ぶ.見せておいてパッと隠したり,そのまま見えないようにして音だけさせると俄然遊びにも熱が入ることになる.


 次に手に入れたネコジャラシは,毛皮で覆われたもの.鼠等の小動物を連想してさぞや熱中するだろうと思いきや,期待外れ.どうして蛍光色の方が好きなのかは,るいもに聞いてみないことにはわからないが,どうも素材や色の違いというよりは,細い方が先っぽが激しく揺れるためのようである.


 随分と手の込んだオモチャも手に入れた.プラスチックのケースの中にやはりプラスチックのボールが入れてあり,ケースに空けられた多くの穴からボールには手が届くのだがどうやっても取り出せない.というものである.最初のうちは夢中に遊んでいたが,もったのは半日.飽きっぽい,るいもには合わなかったようである.それならばと,中のボールを出してやると,早速サッカーが始まる.小猫がボールを転がしていく様子は,とても愛くるしい.しかし名手は30秒と経たずにシュートを決め,ボールはソファーの下,棚の下のゴミと化す.後にはボールの無くなったプラスチックケースだけが残ることになり,なんともバツが悪い.


 アムリスさんの,猫のオモチャモニターに応募していただいたのが,ピアノ線の先にボール紙のついたオモチャ.ピアノ線に弾性があるため先に付いたボール紙がモービルのようにゆらゆらと揺れる.その動きは動かしている人間にすら予測できない.郵便で届いたオモチャを開けて取り出した時から飛びつき,一時はかなり熱中したものの,今はかなりうまく動かさないと,とりあってくれない.壁を這う虫のように動かすのがお気に入りで,虫嫌いの家内の前では遊べないオモチャになってしまった.るいもは昆虫が好きで(昆虫狩りが好きという方が正解であろう),壁に蛾や蜘蛛がいれば動かなくなるまで追いかけまわす.このため,るいもの視線が壁の上をさまようたびに,虫嫌いの家内は言いようの無い恐怖に襲われることになる.不思議なことに壁に何もいないのに,何かの動きを追っていることがある.亡霊でも追っているのだろうか等と冗談にも言おうものなら,そのまま口をきいてくれなくなりかねない.


 最近のお気に入りは,やはりロッドアンテナの先にゴムヒモをつけたものである.これは家内の考案で,これを普通に横に動かすだけで大はしゃぎである.るいもは何故かゴムヒモが好きで,鼠のしっぽに似ているから等と人間様が推測してみるものの,所詮は邪推に過ぎず,本当のところは当猫に聞いてみないことには,わからない.るいもは最近,自分の遊びは人間無しには成り立たないことに気づいたようで,いかに人間を遊びに付き合わせるかという研究に余念が無い.わざと叱られるようなことをしてみたり,噛み付いてみたり,甘い声でおねだりしたりと色々な手を試みているようである.そしてその成果は着々と上がっているようである.


 噛み付くと大声で怒られることが分かっているので,僕が相手の場合は,おねだり攻撃.忙しいとなかなか人間様もとりあってくれない.色々な鳴き声や動作を試み,その結果はすぐさまフィードバックされて,より磨きのかかった洗練されたものになる.あなたの弱点はお見通しよとばかり,下からじっと目を見詰めてアーンと鳴く.それが駄目なら,椅子の肘掛けまで手を伸ばして人間様の手を肉球でポンと叩く.それでも意地悪く無視を決め込むと今度は濁った声で「どうしてよ! どうしてだめなの?」とだだをこねる.しかし,どうしてこう他のことに集中している時に構ってもらいたがるのだろうか.家内に言わせると嫉妬だという.まぁ,確かに人間でも相手が何か別のことに夢中になっていると,ふと寂しくなってチョッカイ出して見たくなることがある.それと似た感情があの小さな体のなかにもあるのかもしれない.

 他の作業をしながらゴムヒモを片手で動かすなどという横着をすると,たちまち「手を抜くな」と手厳しいお叱りを受けることになる.るいも姫によれば,心がこもっていないと駄目なのだそうだ.





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