猫は家につくか?

 良く「猫は家につく」と言われる.これは犬との対比で言われている部分もあるのだろうが,確かに猫は自分の知らない所に連れて行かれると物凄く臆病になる.「借りてきた猫のように大人しい」というのも,この猫の習性を良く表わしていると思う.昔,公園に”るいも”を連れて行ったことがあるか,それはもう大変な恐がりようで,飼い主の服の下に入り込んで,襟元からたまに首を出して体を硬くして震える始末.それ以来外に連れ出す時はと言えば,病院に行くか家内の実家に行く時位.こういう場合は車の中で暴れないようにカゴに入れていくのだが,すっかり「カゴ=恐怖」の等式が出来上がっていて,カゴに少しでも触ろうものなら逃げ回る.猫の記憶は2−3分しか持たない等という話をどこかで読んだように思うが,こと「恐怖」に関しては克明に覚えているらしい.

 では,猫は人につかないのかと言うと,そうでもない.知らない人が家に来ると一目散に逃げてしまう.生後半年位まではそれ程人見知りをしなかったのだが,今(1歳と7ヶ月)では知らない人が来るとソファーの下に入り込んで数時間は出て来ない.家にいる時は大抵私か家内の側にいるし,私しかいない時は寒い時なら膝の上.それ以外の時でもどこか目の届くところで寝ている.寝ている時にそっとトイレに立つと,気づいてついてきてドアの向こうで「大丈夫なの?」とばかりに鳴いて待っているし,風呂に入ればやはりついて来て,浴槽のへりに座ってウトウトしている.ベッドで腕を広げて寝ていると,嬉しそうにやって来て,ちゃっかり人の腕を枕にして寝てしまう.飼い主を自分の子供と思っているのか,自分の親と思っているのか,その理由はともかく側にいることに喜びを見出しているようだ.寝ている時にそっと気づかないように姿を消すと,見つけ出して(姿を消しても,においであっという間に見つかってしまう)「どうして黙っていっちゃうの?」と抗議される.何だかこちらもとても悪いことをしたような気分になってしまい,最近は席を外す時は一声かけることにしている.不思議なのは,こちらが外に出かけようという時に全く抵抗しないことである.昔,テレビで出かけようとする飼い主に猛然と抗議する犬を見たことがあるが,るいもは,気がつかないだけなのか飼い主が出かけることには全く無頓着なようだ.いや,もしかすると出かける時は自分がカゴに入れられるのではないかと,内心ヒヤヒヤしながら平静を装っているのかもしれない.飼い主だけが出かけるのを見てホッと胸をなで下ろしているのかもしれない.飼い主が出かけた後,何をしているのかは定かでないが,どうやら殆ど寝て過ごしているらしい.こちらが帰って来た時は,すっかり「私,寝てました」と顔に書いて出てきてあくびを連発するか,嬉々として出てきて「ねぇ,何して遊ぶ?」としばし付きまとう.こういう時に帰宅そうそう疲れて,適当に相手していると「遊ぶのはあなたの義務よ」とばかりに猛然と抗議される事になる.

 「猫は家につく」と言われる反面,猫が人に甘える事は,良く知られている.お腹が空いている時は,鳴き声に切迫感がある.こちらが分かりかねていると,人の足を手(前肢)でポンポン叩いたり,肩まで上がってきて,耳元で鳴いて訴える.遊んで欲しい時はもう少し余裕があって,鳴き声も飼い主が喜ぶ声を選ぶようだ.こちらがじらしたりすると,か細い声で鳴いてみたり,そうかと思うと「どうしてよ!」とばかりウゥゥとうなって,猛烈なスピードで走り回ったりする.この猛烈な速さで走り回るのは,怒られた時にもよくやるので(この時は,うなり声が,「くやしー」と言っているように聞こえる),どうもストレス発散の効果があるらしい.特に用が無くても側に寄って体をくっつけて来たりするが,これは単に寒いだけだという話もある.こういう時にブラッシングしてやると,とても気持ち良さそうである.しかしどういうわけだか,気持ち良さが高まっていくと一転,狂暴になる.お腹を上にして気持ち良さそうにしていたかと思うと前肢でこちらの腕をガッシリ掴み,噛み付き+後肢で猫キックを猛烈な勢いでおみまいされる.どうしてこういう行動にでるのかは今もって謎である.しかし何人かの猫好きの人からも同じ証言を得ているので,どうもるいもに限った行動ではないらしい.興奮するといえば,視線が見え隠れするのにも強い興味を持つ.「かくれんぼ」に相当するのか「いない・いない・ばー」に相当するのか分からないが,物陰に隠れて目がギリギリ見えない位の所に隠れていると,腰を落として密かに近づき一気に襲いかかって来る.「襲う」とはいっても両前肢で両側のホッペタをポンとやられるだけなのだが.

 話が少しそれたが,結局のところ,「猫は家にも人にもつく」というのが本当のところのように思う.家か人かどちらか一方という事はなくて,両方揃わないと駄目なようである.つまり,自分の家でも知らない人がいると落ち着かないし,飼い主の側でも,知らない場所だとやはり落ち着かない.もっともキャットショーに出るような猫は知らない場所,知らない人が相手でも悠然としていられるようだ.結局のところ育て方によるところが大きいのかもしれない.しかし,まぁ,自分の飼い猫が自分にしかなつかないというのも,それはそれで一つの魅力にもなるわけで,人見知りする赤ちゃんを「本当に,人見知りが激しくて困ってしまうわ」等と言いながらも,まんざらでもない風であやすお母さんと一緒で,人見知り猫を抱える飼い主さんも実際の所それが魅力の一つになっているに違いない.

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