るいもの戯れ言

「プログラミング言語Rust公式ガイド」を大分前に送って戴いていたのを、ようやく読んだ。

Rustは、個人的にかなり気に入った言語で、早く組込み開発で普通に使えるようにならないかなと思っている。Rustの公式のガイドがとても良く出来ており、おそらく多くの人がここをとっかかりに始めているのではないかと思う。本書は、このガイドを読んだ人、読んでいない人のどちらにも勧められる良書だ。ただ中盤以降の翻訳は一部こなれていない箇所もあり、意味が良く分からない時のために原書もあると良いと思う。

2章 Shadowing。Rustでは同じ名前の変数を複数回宣言できて、それにより前の変数はShadowされる(見えなくなる)。他の言語では、ほとんどが二重宣言のエラーになるところだ。便利かもしれないが個人的にはRustの言語仕様の中で、ほぼ唯一疑問を感じるところ。まぁ関数のサイズが小さければ問題ないのかもしれない。

2章 Result型。他の多くの言語が例外を使うのに対し、Rustは正常時と異常時との2つの型を持てるいわゆるEither型を使用する。ユーザのコードがResult型の結果を受けて何もしていないとコンパイラが警告を出してエラー処理を忘れていないかと忠告してくれる。

3章 Rustのセミコロンの扱いは、他の言語(行末のセミコロンを省略しても良いという仕様)から来た人をとまどわせることが多いと思う。値を返したい場合にはセミコロンを書いてはいけないし、文の間は基本はセミコロンで区切らないといけない。

4章 Rustで特徴的なのが所有権の管理。

let s1 = String::from("Hello");
let s2 = s1;

最後の文でs1からs2に文字列の所有権が移転されて、この後はs1が使用できなくなってしまう。これにより二重解放のバグが回避される。

4章 そしてもう1つ象徴的なのが参照の管理。例えばJavaとかScalaでは型によりImmutableかどうかが決定される(Javaはまぁ、Collections.unmodifiableXXX()みたいな型だけじゃ判別できない辛いやつもあるけど)。String型ならImmutableだし、StringBuilderならMutableだ。Rustはここの考え方が根本的に異なり、最初に見た時は衝撃を受けた。コードのあらゆるポイントで以下が満たされていることをコンパイラがチェックしてくれる。

  1. Immutableな参照(&)だけであれば、同時に幾つでも生成できる。
  2. 1つでもMmutablな参照(&mut)があれば、これ以外に別のMutableな参照もImmutableな参照も同時に存在できない。

この条件を満たしさえすれば、何もImmutableなデータのみに拘泥してロジック組まなくてもいいよね、という考え方なのだ。そしてスレッド安全性もコンパイラがチェックできてしまう。

8章 Rustはデフォルトはmoveセマンティクスなので、コレクションにデータを格納すると、所有権が移転されてコレクション側に移る。このあたりも他の言語から来た人を、かなり驚かせる点だろうと思う。

10章 そしてライフタイム。Rustでは、ライフタイム(そのデータがどこまで有効であるか)を指定するのにジェネリクスの記法を用いる。おそらくRustで最初につまずくポイントがここだろう。

13章 Rustではクロージャを利用できる。ただクロージャは環境にアクセスできるので、その環境からキャプチャした変数の扱いにも所有権が絡んでくる。そのためクロージャにも3つの型があり、FnOnceは環境から所有権を奪い、FnMutは可変借用をし、Fnは不変借用をする。

17章 代表的なGoFデザインパターンをRustで実装してみる試みがおもしろい。

19章 関連型。Iteratorは要素の型を型パラメータではなく、関連型で指定する。

pub trait Iterator {
  type Item;
}

Scalaでも抽象型宣言という同じ機能があるのだが、型パラメータを使うのと比べて何が違うのかが良く分からなかった。本書は関連型を使うと何が嬉しいのかが具体的に解説されている。本書の良い点は随所でこのように「なぜそうなっているのか、何が嬉しいのか」かがきちんと説明されている点だ。

以上、個人的に特に面白いなと感じた点を、つまみ食い的に紹介してきたが、本書の内容は網羅的であり、これ1冊理解すればRustの大部分を理解できると思う。

Rustの魅力は、上にも書いたように低レベルの処理をマルチ・スレッド処理も含めて安全に書けることに加え、しがらみが無いため単純で美しい点、エラーメッセージが懇切丁寧である点、また単体テストやビルドツールが標準で用意されている点などが挙げられると思う。最近は採用されるケースも良く聞くようになってきたので、今後ますますの普及に期待したい。